2012年1月23日月曜日

筆者の催眠研究歴その3

(3) 前世療法への取り組み 
筆者が前世療法に取り組むことになったのは2002年に、一人のクライアントを引き受けた際のことでした。
このクライアントとの出会いがなければ、その後の前世療法への強い関心も生まれ変わりの本格的探究にも導かれることはなかったと思います。
リストカットを繰り返すその既婚女性は19歳の亜由美さん(仮名)でした。
知人を介して亜由美さんの父親から依頼があったのですが、その症状がかなり重篤であることの説明を受けていったんはお断りしました。
毎日のように繰り返し、その間の記憶のないリストカットと、夫に対して些細なことがきっかけで怒り出し、暴力を振るうなど、頻繁に見られるパニック様症状の改善が主訴(依頼内容)でした。
一年近く公立病院精神科に通院しており、抗うつ剤・精神安定剤の処方とカウンセリングを受けていましたが改善の兆しが見られず、本人も承諾しているのでなんとか催眠療法を受けさせたいということでした。
えてしてこうした依頼をされる場合には、最後の頼みとしての催眠療法に対する過大な期待されていることが多く、引き受けることを安易に返答してはならないというのが筆者の原則でした。
二度はお役に立てそうにないからとお断りを繰り返しましたが、とにかく会うだけでも会ってほしい、という懇願に負けて面接をすることにしました。
お会いする前提として主治医に診断名と催眠法適用の適否を確認するようにお願いしました。
最初の家庭訪問で、父親から、診断名は特につけられない、催眠の適用も特に問題はないという主治医の回答をもらったという説明を受け、亜由美さんとの面接でも異常な言動の認められないことを確認して、慎重に第一回のセッションをすることになりました。 
彼女の被暗示性はきわめて良好で、痛覚麻痺の起こる知覚催眠(中程度の深さの催眠)までに容易に誘導することができました。
こうして、リストカットの原因を探るための年齢退行催眠を毎週一回、7回にわたって試みてみました。
この過程で、彼女のリストカット中の記憶が抑圧されていた原因を少しずつ明らかにしていくことができました。
ご主人との恋人どうしの時代に、ご主人が別の女性に妊娠させていたという裏切り行為を知ったことが原因であることが明らかになっていきました。
それにともなって、リストカットの回数とパニックが徐々に治まっていきました。
自分が無意識に抑圧して意識にのぼることがないようにしていたものを意識の明るみに引き出し、抑圧によって引き起こされていた症状の意味を「ああ、そうだったのか」と感情を伴いながら納得できたとき症状は克服される、というのが多くの心理療法に共通する治癒の原理です。
リストカットがほぼ治まったのを確認し、これで筆者に可能なやるべきことは終わったという思いで、彼女への催眠療法を終結しました。
しかし、その一か月後、リストカットが再発し、なんとしても催眠療法を再開してほしいという父親からの依頼が届きました。
(つづく)

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