2012年1月27日金曜日

筆者の催眠研究歴その6

(その5からのつづき)
(6) 「亜由美の事例」と問題意識

この「亜由美さんの事例」で、筆者が最も驚きと関心を持ったのは、次のような事実でした。
前世療法についてまったく知識がなく、また、魂や生まれ変わりをまったく信じていないにも関わらず、そして、前世療法をおこなうことを予告していないにも関わらず、つまり、クライアントにとって完全に白紙の状態でのセッションにも関わらず、深い催眠状態では「中間世」と呼ばれる次元での記憶や「前世」の記憶が想起された事実でした。
特に「中間世」については前世ほど一般的にイメージしやすい概念ではなく、「時間も空間も超越した光の世界が広がっています」という暗示だけで、このような魂状態に移行することは考えにくいように思われます。
また、彼女の前世記憶の真偽については、語られた内容が情報不足で検証不可能ですが、まったく魂や生まれ変わりを否定している亜由美さんが、それをリアルに想起できたという現象はいかにも不思議でした。
実はこの「亜由美の事例」こそ、2004年4月立命館大学で開催された日本催眠医学心理学会・日本教育催眠学会合同学会で、前世療法の特殊事例として研究発表したものです。
60名ほど集まった発表分科会の研究者の意見は、セラピストの誘導とその期待に応えようとするクライアントの「作話」「前世の物語」「想像した前世」である可能性が濃厚であるというものでした。
催眠中のセラピストの期待(要求)を敏感に感じ取って、その期待(要求)に応えようとするクライアントの態度や心理的傾向を催眠学用語で「要求特性」と呼びます。
「亜由美の事例」は、筆者の前世への誘導暗示に対する「要求特性」がはたらいた結果想起されることになった前世イメージのフィクションに違いない、というのが催眠学に則った「科学的説明」だということになるのでしょう。
想起された前世の記憶についての日本のアカデミズムの見解は、このような受け止めが大勢を占めていると言ってよいと思います。
しかし、前世や魂の存在をまったく信じないという信条を持っている亜由美さんが、催眠下においてそれを簡単に放棄するほど「要求特性」が強くはたらいた、という安易でもっともらしい「科学的説明」は、筆者には説得力があるとは思えませんでした。
「要求特性」を考慮して強引な誘導にならないように、「もし、あなたに今の人生の他にも別の人生があるとしたら、そこに戻ってみましょう」という注意深い暗示を与えたつもりです。
そして、その結果想起されたものは、別の人生である「前世」ではなく、中間世の「魂状態」でした。
潜在意識の深淵には、「要求特性」によるフィクションという催眠学的説明ではおさまり切らない、魂の状態の記憶、あるいは前世の記憶とおぼしき何かが潜んでいるからこそ、それらが顕現化してくると考えることが自然な解釈ではないでしょうか。
そして、この最初の事例を契機に、こうした解釈の妥当性を自ら実証しようという筆者の強いこだわりが始まっていくことになりました。
そもそも、アカデミックな陣営に所属する研究者は、「前世」「魂」という用語に、問答無用の非科学的というレッテルを貼り付け、自ら前世療法に取り組み、非科学的である実証作業を放棄しているとしか思えませんでした。
この筆者最初の前世療法である「亜由美の事例」は、その三年後(2005年)に出会うことになる「タエの事例」につながっていく前駆的事例でした。
前世療法と呼ぶ以上、前世記憶の検証可能な事例に出会ったときには納得のいくまで徹底的に検証せずにはおかないという探究心が強く芽生える契機となったからです。
そして解答は、前世(生まれ変わり)があるか、ないか、二つに一つです。
こうして、2006年10月に「タエの事例」、2010年8月に「ラタラジューの事例」が、フジTV「奇跡体験アンビリバボー」に取り上げられ、生まれ変わりを示すセッション証拠映像が放映されることにつがっていくことになりました。

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